下北半島のサル調査会

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3.結果と考察

表1  体重測定の結果(A2-85群)

 1)表1より、周辺ザルだったジンベイは、2回測定しただけで行方不明となり、ブリも1年間の記録を残し死亡、測定開始時に3歳だったオスの子ザルのハヤは5歳の初冬に群れを離れA-84群に移りました。結局、3頭のオスザルが測定不能になりました。ハヤの2年間半の記録は記載しましたが、ジンベイとブリの記録は参考資料とし記載しませんでした。また、測定期間中に4頭のメスザルが出産し、のべ7回の出産がありました(1994年のムギとウルシ、1995年のハギ、1996年のアンズ・ウルシ・ハギ・ムギ)。出産直後から数カ月は母ザルがベビーを抱いているため、母ザルだけまたはベビーだけの体重測定は困難でしたが、できるかぎりそれぞれの体重を測定することに努めました。親子合わせた記録は参考記録とし表には記載しませんでした。

グラフ1-1 体重測定【オトナのサルの体重の変化】

 2)表1グラフ1-1より、オスザルの体重の最高値は、13歳イトウの1996年6月29日に測定した15.00kg。メスザルでは15歳以上のハギの1995年12月20日に記録した12.70kgでした。オトナのオスの体重は、13〜15kg、メスでは8〜12kgの範囲です。25歳以上メスの老猿ウメは、10kgを越すことは稀で、8〜9kg台で高年齢になるに従い体重も減少しています。

 3)グラフ1-1より、オトナのサルの体重は、子ザルの場合と異なり、増減はあるものの一定の範囲を越えていない。成熟したメス(ハギ)ほど体重は重く、若者のサル(ムギ)ほど体重は軽い。ただ、上記したように高年齢になるに伴い、体重は減少している(ウメ)。

グラフ1-2 体重測定【子ザルの体重の変化】

 4)グラフ1-2より、コイタロウ(1-4歳♂)・アンズ(2-5歳♀)・モモタロウ(2-5歳♂)・ハヤ(3-6歳♂ただし5歳までの記録)、この4頭の成長に伴った体重の変化を見てみると、増減を繰り返しながら右肩上がり、年をとるに伴って体重が増加していることが解りますが、驚くことは、その増減の過程が見事に酷似していることです。年齢による体重差が顕著に現われ、年齢の違いがあるなかで子ザルたちの体重は、同じように増え同じように減っているのです。このことから、下北のサルの1〜5歳までの年齢を、体重測定値と測定日時が分かれば、かなり高精度に推定できることになります。

グラフ2 体重測定【増減】


 5)グラフ1-11-22より、年間の体重の変動は、初冬の12月に体重が一番重くなり、厳冬期に徐々に減少し、早春の4月に最も軽くなる。そして、初夏の6月までの2カ月間で回復し、盛夏の7、8月に再び減少し、その後秋から初冬にかけて徐々に増加しています。晩秋から初冬にかけて体重が最も重く、厳しい冬をその蓄えで過ごすという一般的な身体の変化は、サルの世界にも当てはまりますが、その後夏にもう一度減少する、いわば“夏やせ”の時期が見られました。そして、この傾向は3年間の測定中全てのサルに見られました。北国に暮らすサルにとって、何も酷寒の冬場だけが厳しい環境ではなくて、夏の暑さも十分苛酷であることが、体重の増減から読み取れました。

 6)
グラフ2より、冬の体重の減少は、4カ月間の長期間に徐々に減っていき、一番体重の重い初冬より2割減まで落ち込む。一方、夏の体重の減少は、6月から7月までの1カ月間の短期間に急激に減少し、一度回復した体重の1割減となっています。この減少の割合は、多少の個体差があり、若干の幅はありますが、年齢や性に関係ないものです。若いサルでも体重が軽いなりに2割減、1割減となっているのです。

グラフ3 成長曲線


 7)グラフ3より、オスもメスも成長を裏付ける体重の増加は10歳ぐらいまでで、その後の増減は一定の範囲内で横ばい状態となっています。そして、高齢になるに伴って徐々に減少していきます。成長曲線では測定できた全てのデータを入力しました(個体の年齢が確かなもの)。下北のサルは出産が5月にピークがあるため、全てのサルを5月産まれとし月令を出しました。

 8)グラフ3より、子ザルの時期もオトナになってからも同じ年齢ならば、オスザルの方がメスザルよりも体重が重い。


表2-1 体重の変化(午前と午後)


 9)表2-1より、体重の一日の変化を調べました。午前値というのは朝一番のまだ採食をしていないと思われる時の値で、午後値は夕方泊まり場近くでもう採食をとらないだろうと思われる値です。550g増加した値(1995.2.21イトウ)が最高で、一例を除き(1995.2.21アンズ50g減)ほとんどの場合に増加しています。ただ、季節による増加率の違いが見られました。11月と4月のデータでは4%から7%の増加率ですが、1月や2月では0.4%から5%の増加率となっています。4月は体重が回復し始めたころであり、11月は秋の真っ只中、体重増加の傾向が一日の体重の変化からも見られます。また、冬場は日中に採食をしているものの食べているわりに増加が見られない結果となりました。

表2-2 体重の変化(午後と翌朝)

 10)表2-2より、夜間の体重の変化を調べました。午後値、翌朝値は表2-1と同じ主旨です。11例中2例が増加し、2例が変化なし、7例が減少していました。普通考えてみれば減少するだろうと思っていましたが、11月の測定では減少していますが、6月や8月では減少もありますが増加や増減なしも記録しました。1994.6.24のイトウでは350gも増加していました。一日の変化や夜間の変化では、測定の前や後に採食することも考えられ、サンプルの数を増やすか、朝早くから泊まり場までの採食行動を観察し、より正確な値を測定しなければならないだろう。

表3 ベビーの体重の変化


 11)表3より、1996年5月上旬に産まれたムギの♀ベビーでは、出産直後(出産5日以内)のベビーの体重は650g、約2カ月後が1150g、3カ月後が1250g、一年後には2450gまで成長します。出産後2カ月までに体重が著しく増加するのが特長です。また、1996年5月下旬産まれのハギの♂ベビーでは、出産直後の体重は測定できませんでしたが、1カ月後で950g、2カ月後で1300gでした。

 12)冷夏・猛暑といった夏の両極端な気象状況も、秋の実りが豊作・凶作ということも、サルの体重には何ら影響がみられませんでした。つまり、夏が暑かろうが寒かろうが、山の恵が大豊作であっても大凶作であっても、秋になるとサルの体重は増加するのです。


サルにも夏やせがあること、気象や山の実りに関係なく秋になればサルの体重が増加すること、この2点が3年間の体重測定の成果です。群れの中で堂々と振る舞い、見た目にも立派なオスの体重が、意外にも軽かった記録があります。精一杯自分の姿を大きく見せていたのでしょう。
 あたり一面雪原で、サルの通り道に台バカリを置くと、移動の途中でヒョイと乗ってくれます。冬場は労せずに測定できますが、老婆ウメには参りました。台バカリの上で何分も居座り、オシッコをしていくこともありました。また、振れる針に興味津々なのが子ザル、2頭連れだって来てハカリの台に乗りバネの揺れを楽しむ姿は、まるで遊び感覚、あげくのはてに針をつかもうとして台バカリをひっくり返すこともありました。

文章・作図・写真   松岡史朗

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