下北半島のサル調査会

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下北つれづれ(5)-フキノトウのはなし

 雪が溶けて、いち早く春を告げるように姿を現すのがフキノトウ。フキノトウは実はフキの花芽なんです。山の斜面、林道や畑道沿いはもとより、家の庭先など、あちらこちらで見られたりします。フキはタンポポのように落下傘みたいな種でも増えるし、地下茎でも増えます。このあまりにも珍しくないフキノトウについて調べてみたら、意外と知らないことや、不思議なことがいっぱいあるのです。

 まず、フキノトウの言葉の由来を探ってみました。なまえは多くの場合カタカナやひらがなで書き表されますが、漢字を入れて書くと一般的には「蕗の薹」と書きます。漢字の「蕗」は路の傍らにある草というイメージをそのまま表現したようです。「薹」は花茎(かけい)を意味するする言葉と辞書にあります。野菜(アブラナやホウレンソウ)など食べ頃を過ぎてしまうと「薹が立ってかたくなり、美味しくなくなった」と言ったりします。若き女性にむかって「あなたも薹が立つ前に・…」などと、お節介なことを言うひともいるようです。ちなみに薹が立ってしまったものを「蕗の姑」とも言うようです。「款冬」と書かれることもありますが、これは誤用と辞書にはあります。でも、冬を楽しむという意味が感じられて風流にも思えます。漢名は「蜂斗菜」と書き、蜂斗は蜂の巣の意味だそうですがどうもイメージが湧きません。ところで「フキ」は「拭き」を意味し、日常生活のうえで役に立つことから生まれた名前であるとする説もあります。詳しいことは分かりませんが、昔、日本海側のあるところのお宅を訪問した方がお手洗いを借りたところ、フキの葉が片隅に積んであり、便器の中には使用済みのものがあったというお話しがありました。わたしもこれには納得します。わたしの山登りの仲間に自然にやさしい山登りをするのを信条にするひとたちがいます。彼らはフキの葉が一番といいます。わたしは衛生面や強度などを考慮して、トイレットペーパーを一枚とフキの葉を重ねて使用するのも悪くないと思います。もちろん、これらはすべて土の中に埋めるべきでしょう。ある山村の小学校では野外体験授業で「フキの葉遠足」というのを実践しているという話しも耳にしました。

 ところで、下北地方で見られるフキはアキタブキ(正式な和名)と呼ばれるものです。植物図鑑によれば生息地は標高の低い所では岩手県水沢以北、北海道、千島、樺太となっています。関東地方以南で見られるフキに較べて、葉(直径は1.5mくらいに達する)も背丈も大きいのです。アキタブキの学名(ラテン語)は「Petasites japonicus subs. giganteus」です。最初の部分(属名)は「旅行用のつばの広い帽子」という意味で、二番目の部分(種小名)は「日本の」という意味で、最後の部分は亜種であることを示す文字(subs.)を挟んで「巨人の」という意味の単語で構成されています。なるほど納得のいく名前だと思います。北海道の伝説にでてくるフキの下にいる小さい妖精のことを「コロボックル」といいますが、アイヌ語でアキタブキのことを「ココロニ」、ヒトのことを「ウンクル」、下のことを「ポック」と言い、組み合わせると「コロボックル」となるそうです。

 語源はこのくらいにして、フキノトウの花の部分を見てみましょう。フキノトウにオスとメスがあるって意外に知られていないようです。フキノトウが土から顔を出した時は淡い黄緑色の「りん片」が花を包んでいます。少しすれば花茎が伸びて花が咲きます。開いたオスのフキノトウは黄色っぽく見え、メスのフキノトウは白っぽく見えます。といわれてもピンとこないかもしれません。それぞれのフキノトウをよく見ると小さいキクやタンポポのような花(頭状花)をいくつも着けています。頭状花が白い刷毛状(毛先が赤っぽいものもあります)に密集してホサホサに見える場合はメスです。オスの場合はツンツンした白いものが疎らに生えていますが、その下には黄色くみえる小さな粒粒の蕾、若しくはミクロの星みたいに見える黄色っぽい花がぎっしり集まっています。このようにフキは雌株と雄株をもつ植物なのです。

 メスのフキノトウの頭状花を虫眼鏡でよく見ると二種類のミクロの花で構成されています。ひとつは星状に開いたミクロの花の中央にツンと突き出た白いメシベみたいなものがある「性的機能を失った雄花」です。もうひとつはチューブ状の花から細い芯のように見えるメシベ(先端がY字型)が突き出ている構造の「性的機能(受粉して種子をつくる機能)をもつ雌花」です。「性的機能を失った雄花(花粉を製造しない)」は虫を誘引するための蜜を製造するためのものだそうです。





 一方、オスのフキノトウの頭状花は単一種類のミクロの花で構成されています。それは星状に開いたミクロの花の中央にオシベに囲まれた白いメシベみたいなものがある「性的機能をもつ雄花(花粉を製造する)」です。このメシベ状のものはオシベを擦りながら伸びて、製造された花粉を花のてっぺんに移動させる働きをもっているそうです(形的には両性の要素をもっているため両性花と呼ばれたりするようです)。この雄花は蜜を製造して虫を誘引し、自分の花粉を運んでもらいます。



 こんなふうにフキは雄株と雌株に分かれているが、オス・メスそれぞれのフキノトウには互いに性的機能を失った異性の部分をもっているのです。それらが本来の機能とは異なった働きをして、ちゃんと役立っていることを知った時、生命の不思議を感じてしまいます。人間もオスとメスに分かれている生物です。それぞれの身体には異性の名残の部分があるように思います。しかし、それらがどのように役に立っているのか認識することは殆どありません。ちょっと興味深いように思います。

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