
このように、昼間に海岸やその近くまで下り、夕方には西日を堪能しつつ斜面を上がり、夜の間稜線近くで泊まって、翌朝早くから稜線上で太陽に当たるといった行動は、ほぼ毎日見られました。
数日後、面白いことがありました。その日、群れは青石海岸の稜線に近い斜面を南下していて、私は最後尾の数頭について歩いていました。しばらく行った所で、突然近くを移動していたおばあちゃんザルがグワア、グワアと鳴き始めました。それどころか、同じく後ろにいた数頭の若いオスと共に、座り込んだまま動かないのです。当然ずっと先に行っていたサルたちは、「こっちへ行こうよ」と言っているかの様に声を返します。その声の中に最後尾にいたおばあちゃんザルと同じような年をとったメスと思われる声がしました。先頭のほうにいるおばあちゃんと最後尾のおばあちゃんの間で、10分ばかりも鳴き交わしがあったでしょうか。結局、最後尾のサルの意見に同意したようで、群れはUターンしてそのまま同じ道を北上しはじめました。
ところがしばらく北上したところで、また群れの動きが止まってしまったのです。先ほど先頭を行っていたおばあちゃんは納得がいかないのか、後ろでウガァウガァと鳴いています。今や先頭になった最後尾のおばあちゃんも鳴き交わします。他の個体は結果を静観するように、時々声を挟む程度で、あらかたは静かに斜面に散らばり、餌を食べたりしています。こうして3時間余りも停滞していたでしょうか。群れは再び南下をはじめました。今度はゆっくりですが着実に移動しています。そうして群れは春の夕日に包まれた海岸へ下りていきました。

↑サンカヨウの花、私は初めて見ました。
サルは声、仕草、表情、視線などいろいろな方法で、仲間とコミュニケーションを取っています。その一部でも理解できたら、例え私の悪口を言われていたとしても(何しろしょっちゅうついてまわるのですから、サルにとってはうざったい存在かも?!)、もっと面白いのでしょう。そうは思いながらも、謎を楽しみながらサルを追いかけている時間は、私にとって至福の時です。
写真・文章 小林 綾
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