
2001 年3月17日、脇野沢村寄浪地区の海岸線の斜面で、A2−84群の老婆ツツジが死亡しました。推定年齢30歳の大往生でした。鯛島を見下ろせるミズナラ林で、打ち寄せる波音を聞きながら、光り輝く春の海に溶け込んでいったツツジ。強烈な威嚇に閉口したこともありましたが、細面の顔、カールした頭、白っぽい体色が特長の親しみ深いおばあちゃんザルでもありました。そんなツツジの臨終をレポートします。
2月15日 A2−84群の移動について行けず、脇野沢村芋田地区の民家の小屋に入り込んだツツジを脇野沢村教育委員会が保護する。3〜4日保護し、A2−84群に戻すが、再び2月23日新井田地区で民家周辺にいるところを保護。衰弱していて群れについて行けないことや、民家侵入の恐れがあることから緊急処置として保護される。ここまでは脇野沢村教育委員会から得た情報です。
3月13日 晴れ 11:00寄浪地区にいたA2−84群にツツジを返す作業が始まる。寄浪地区の西側のスギ植林地に狭い檻から18日ぶりに開放されたツツジは、細い沢で時間をかけて水を飲む。ヨタヨタと民家方向へ歩こうとするが、係員に誘導され日当たりの良い雪解けのすすんだ海岸線の斜面に移動する。そこにはA2−84群の顔なじみの仲間がいた。1125群れに合流、とはいっても、長期間の保護で糞尿にまみれ強烈な異臭を放つツツジを嫌がったのか、ヨタヨタと歩く姿に戸惑ったのか、ほとんどのサルが関心を示さなかった。ただ、3歳ぐらいのサルとメスザル1頭が2〜3mまで近寄ったが、それ以上の接触はなかった。ツツジは海岸線の斜面を下り、ササの葉を食べる。13:03高さ2mの枝から落ちる。ドスンと鈍い音。ツツジの落下に、周辺のサルがウリャー、ウリャーと鳴き交わす。特に、オスザルは、ツツジから 6mぐらい離れた位置で観察していた私を見て、ハァッと口を開け威嚇する。ツツジに対し無関心を装っていた群れのサルが、実は気にしていたことが一連の行動から読み取れる。その後、ワサビ(ツツジより少し若い老メス)がツツジの傍までやってくる。 2mぐらい離れて互いにササの葉を食べるが、ワサビはしきりにツツジを覗き込み様子を伺う。ただ、触れ合うことはなかった。 14:15 A2−84群が海岸線に沿って蛸田地区方向へ移動する。ワサビもツツジを置いて群れの最後尾で移動していく。取り残されたツツジは群れについて行く素振りを見せず、ササの葉を食べている。一頭になったツツジを観察。左眼が白内障で白い膿が流れ出ている。その膿が乾いたものを食べる。歯は上下とも数本が抜けている。鼻先を負傷し時々出血している。両足の中指と人差し指の指先の皮膚が剥がれ痛々しい。何はともあれ、臭い。 17:00観察終了。
→次ページ