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File31:下北つれづれ(11)
−ミソサザイのハコリン
師走のある朝のこと。いつものように会社の入口戸を開けて事務所に入ると、小さくてスズメみたいな鳥が目の前をぴゅっと飛んだ。窓の桟に止ったので、走りよると、パッと飛び立ち、一直線に引き返した。建物の入口戸と奥の壁との間を往復しているうちに「パチン」とガラス窓に体当たりした。小鳥は仰向けになって床に転がっていた。そっと拾い上げて掌にのせる。スズメよりも一回り小さい。全体的にこげ茶色。短い尾羽は背中のほうに跳ね上がっている。眼は黒っぽいビーズ玉。嘴は錐のように細い。ミソサザイだ。どこから来たのかとあたりを見回すと換気扇の開口部が目に付いた。
掌にぬくもりが伝わってくる。でも、その身体はピクリともしない。そのまま事務室に運び、手近にあったダンボールの小箱の中に横たえて蓋をした。失神しているだけなら良いのだが、死んでしまったのかも知れない。回復を願い、ゆっくり休めるようにと、小箱のうえから、さらに、もうひとつの箱をかぶせて暗くした。
それから一時間後、どうしたものかと気になり、小箱の蓋を開けるための指かけ穴から中を覗く。背中が見える。じっとしているようだが、立っているみたいだ。少し安心!さらに一時間経過、箱が音をたてている。小箱はそこだけ地震でも起きているかのようにカタカタ揺れている。蓋の指かけ穴から嘴を突き出している。中に引っ込んだと思うと、今度は足の爪がかかっている。やがて、白い小箱の穴からひょっこりこげ茶色の頭だけが外に出た。その姿から「ハコリン=箱のwren(英名を訛って発音)」と名付けた。元気になったようだ。

外に放す前に、写真を撮りたいと思い、蓋を少し開け気味にした瞬間、指かけ穴から湧き出るように空中へ飛び出した。そのまま隣の部屋を通り越し、所長室の書棚の陰に飛び込んで姿をくらました。何列もある書棚を覗いて捜索したが、見つからない。あきらめて事務室のパソコンをたたいていると、何処からともなく飛んできては、直ぐに戻っていく。そのうち所長がやってきたので事情を話したら、所長室の窓を開け放してくれた。その後、ハコリンの気配はすっかりなくなったので、きっと山に帰ったのだろう。ハコリンが小箱の中に入っている間に目方を量っておけば良かったと少し悔やんだ。
鈴木 邦彦 2007年12月8日
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