File29:下北つれづれ(9)−足澤さんの石ころ
「足澤貞成さんを偲ぶ会・ヒバの宿のお別れ会」が終って10日ほど過ぎ
た11月16日、奥戸川にサル調査の仕事で出かけました。山の木々はほとん
ど葉を落としています。奥へと延びる林道の端には先日降ったばかりの雪
が、ブナ、ミズナラ、クリなど茶色になった枯葉と共に、箒で掃き寄せら
れたように残っていました。

もうすぐヒバの宿です。渓谷沿いの急斜面につけられた林道のカーブを
曲がると・・・・。びっくりしたことに、ヒバの宿は既に撤去され、白い
砂利が敷かれた更地となっておりました。ぽっかり明いたその空間に車を
停めて、雨上がりのしっとりとしたヒバの森に足澤さんのお墓を訪ねまし
た。あの大きな体の足澤さんの小さな石ころのお墓は木漏れ日の中、くつ
ろぐように座っていました。この間のお別れ会でお供えした線香、花、好
きだったタバコ、ホオノキの葉の皿にのせられたマツブサの実がまだ残っ
ています。「足澤さん、いつの間にか小屋(ヒバの宿)、なくなっちゃっ
たんだね。今日はね、サルの調査に来たんだけど、お目当てのサル(Ar1
群)が見つからないんだよ。足澤さん、どこにいるか知ってる?」と石こ
ろに話しかけました。
車に戻って、受信機のスイッチをひねったら・・・なんということでしょ
う、入力があるではありませんか。思わず、「足澤さん、いるよ!」と声
をあげてしまいました。今まで、ちっとも電波が取れなかったのに・・・
・。電波を頼りに小屋跡から数百メートル上流へと進んだ。ネヤマノ沢と
いうところでサルたちはグルーミングしていました。群れは林道にも広がっ
て、ゆっくり下流へ移動しています。そのサルたち、翌日はさらに下流部
にある下二股沢というところで発見され、この沢の奥に登って行きました。
調査第三日目の朝は全く電波も取れず、手がかりがありません。ほぼ、あ
きらめムードで小屋跡に車を停めて、ひと休み。通りかかったついでに、
一応、足澤さんに挨拶をと、お墓に立ち寄り手を合わせました。「足澤さん、
二日続けてサルが見えたのだから、今日はもう見れないよね。」
不思議なことも二度あるものです。それから15分後、小屋跡から900mほ
ど上流部に注ぐ五ツ家戸沢の出合付近にて群れは発見されました。足澤さん
が大サービスしてくださったようです。わたしは足澤さんの石ころにお礼を
言って奥戸川をあとにしました。
2006年11月19日
鈴木 邦彦