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file12−調査報告の裏側には
未明、雨の音で目が覚めた。
驚くほど冷え込んでいる。シュラーフのジッパーを首元まであげた。
8月11日朝6時起床。カメラやメモ帳を防水袋に包んでザックに詰める。雨合羽はズボンだけはいた。ベテランの小林綾さん、植月純也さん率いる「O群追跡班」だけに緊張する。雨はやみそうにない。電波発信機があるから、ひょっとして車中にいながら群れの位置が分かるかも知れない。6時半出発。面木林道は川になっていた。電波が採れない。群は山陰に入ったか。
「それでは、藪こぎしましょ」
綾さんの言葉で全員車から降りた。300ピークを目指して徒歩で進む。数日前にクマが出た山だ。エビガライチゴをつまみ、水浸しの林道を伝う。川に遮られて山道に転進。彼女は「ほら、ブナの実」と余裕ある説明を続けたが、あまりの雨に緊張していたと後で聞いた。這い上がるように登り、道をふさぐ倒木を越える。散乱した小枝に足元がすくわれる。風で傘が飛ばされそうだ。
歩き出して1時間。300ピーク手前の峰に着いた。天気がいい日は津軽海峡から北海道まで見えるというが、そんなことより、ここでも電波の反応がないではないか。
そこから綾さんと本多嬢は青石林道に向かい、こちらは植月さんと引き返す。下りの方が転びやすい。知ってはいたが、転んだ。水かさの増した林道で靴ごと水に浸かった。
車に戻って青石林道に回った。川を膝上まで浸かって渡ってくる二人を見つけ、どんなに安心したことか。手分けして二人を探そうと、植月さんに言われた直後だったのだ。
その夜のまとめで本多嬢が報告した。
「午前中は青石林道の起点、面木林道、300ピーク、M字カーブ、細間林道などを回りましたが、電波は取れませんでした。」
4人がずぶ濡れになり、半日間、大げさに言えば命懸けで歩いた結果が数行のデータに結晶する。「下北半島のサル調査会」の報告書はそんな努力に裏付けされている。そう思い知った、夏の素晴らしい経験でした。
文章:清水 弟 (朝日新聞記者)
写真:松岡 史朗
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