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 北半島にはミズバショウが咲く大小の湿原がそちらこちらに見られる。ミズバショウは清楚で美しい花だが、ここでは、ごくありふれている。また、移植が困難であったり、花期を過ぎると、どんどん葉っぱが成長し、お化けのようになるためか、盗掘の対象にもなり難いようである。しかし、日本のあちらこちらからメダカがいつの間にか消えていったように、これらの湿原は果たして将来にわたって保たれるのだろうか。地図を片手に田名部川水系以東(むつ市・東通村)のいくつかの湿原を訪れ、その姿を見てみたら、必ずしも楽観視できないように思えた。湿原消滅のストーリーをかいまみた気がする。

 湿原その1
湿原は標高30mほどの丘に囲まれ、ヒョウタン型にくびれた4haほどの広さである。下流部の半分は湿原を優先する樹木であるハンノキやヤチダモがことごとく伐採され、陽光がいっぱいに降り注ぐ切株だらけの原っぱになっていた。切株の周りには真新しい木屑が落ちている。伐採はどのような目的かは分らないが、切った幹は丁寧に積み重ねられ、薪となる様子である。天井を失った干上がりぎみの原にはザゼンソウやミズバショウが疎らに、まぶしそうに顔を覗かせていた。ヒョウタンのくびれを過ぎて、さらに上流側へ進むと、あと半分の美しいミズバショウたちの園がまだ残っていた。

湿原その2
地図を見ると幹線道路の下を横切るように流れる小沢のすぐ上流に約1haの湿原記号が付いている。背後には標高150m程の山がひかえている。現場を訪れてみると、すっかり砂利などで埋めたてられ、魚網干場に変身していた。そして、その奥にはスギ植林地が広がっていた。

湿原その3
標高40mほどの丘の麓にある6 haほどの湿原である。そこは下流側の農道と上流側の林業作業道に囲まれていた。湿原には背丈がせいぜい12mらいの若いハンノキがヒョロヒョロと生えているが、あたりは一面のオギ。ミズバショウはあるにはあるが、疎らである。まるで、オギにその場を支配されているかのようだ。昔、伐採があって、その後にオギが繁茂したのかもしれない。

湿原その4
これも標高40mほどの丘の東麓にある8haほどの湿原である。中央を小沢が流れる。下流側には田園が広がっている。小沢の上流には堤が築かれ、そこから流れ出る水は手掘りやコンクリートの溝の中を通って水田に直行する。疎らに生えているミズバショウは、かつて水流がひたひたと辺りを潤していたころの名残だろうか。

湿原その5
標高30mほどの丘に囲まれた細長い湿原である。広さは3haほどもあろうか。支線道路が湿原の下流端を横切っている。湿原を流れる小沢は良く蛇行して周辺を潤し、ミズバショウは所狭しと咲いている。小沢に沿って歩くと、20mはありそうな背の高いハンノキやヤチダモがたくさん生えているのに気づく。まるで、これらの樹冠がそっと湿原を包み込んでいるようである。少し盛り上がったところはイヌツゲ、ウワミズザクラ、カエデ…と樹種が多様であることを感じさせる。湿地にはバイケソウ、ナニワズ、リュウキンカ、ネコノメソウ類も見え賑やかである。湿原を囲む斜面は部分的にスギ植林もあるが、全体としてはヒバ、ミズナラ、クリ、シナノキ、コナラ…とホッとするような自然林となっていた。そして林床にはカタクリが葉を広げていた。キクイタダキが忙しく枝から枝へと飛び移っているかと思ったら、どこかでフクロウの声がした。「ああ、ここはいいところだ。」

地図にも表されないような、人知れずある無数の湿原はこれからも存在するかもしれない。しかし、ある程度の広さをもつ湿原は、知らず知らずのうちにその価値も問われぬまま、様々な理由から、その姿を消していくのではないだろうか。そこに住む動物たちをも道連れに…。

文章・写真   鈴木 邦彦


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