下北半島のサル調査会

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 2001年11月7日朝、脇野沢村の国道338号線のメゴ田の頭沢出合い付近、村に一ヶ所しかないガソリンスタンドの北、200メートルぐらいの地点で、A2-84群の周辺ザルである13〜14歳ぐらいの♂ザルがトラックに轢かれて死亡しました。あられがみぞれにかわり、アスファルトの路面が寒寒と光る朝のことでした。私は、事故の数分前に事故現場近くの斎場周辺にA2-84群が広がっていることを観察していましたが、別の群れを探しに行っていて、事故の瞬間は目撃できませんでした。再び、A2-84群を観察しょうと戻ってきた時に、国道に大の字に横たわるサルと出くわしたのです。事故直後とあって、私が第一発見者でした。事故の当事者であるトラックの運転手さんは役場に通報しているところでした。動物との交通事故の場合、通報も事後処理もしないで、当て逃げするドライバーが多いい中、この事故の当事者は通報し現場検証にも付き合ってくれました。運転手によると、サルの群れが国道の両側に広がっていたことは知ってはいたものの、突然国道の西側から飛び出し、車に当たり、前輪でサルを轢いたとのことで、タイヤがサルに乗り上げた時のゴトンという感触があったといいます。事故直後は身体がピクピクと動いていたものの、すぐに動かなくなったといいます。目の前で大の字に横たわるサルには事故による損傷が全く見られず、出血すらありませんでした。ただ、交尾期のこの時期、オスザルの顔は紅色になっているのが普通ですが、このサルの顔面は蒼白で血の気がなくなっていたのが印象的でした。また、A2-84群は仲間のサルの交通事故死など全く関心がないのか、現場検証をしていても国道脇の田の畔でシロツメグサなどを食べていました。この死亡ザルはその後サル山公苑に埋葬しました。
 翌、11月8日早朝、何と2日続けてサルが交通事故に遭いました。前日と同じA2-84群のサルです。8:40ごろ私がA2-85群の観察に向かっていたところ、国道338号線のガソリンスタンドよりも南、200メートルの地点、少し傾斜のある緩やかなカーブで教育委員会の担当者が事故に遭ってぐったりとしている子ザルを見守っていました。やはり通報があり駆けつけたということでした。2日続けての事故にあ然としましたが、この子ザルは2歳のオスで、ぐったりとしているものの生きていました。道路に出血と脱糞の跡がありました。傷を調べると、頭頂部と額に出血が見られましたが、耳・鼻・口など頭部以外には出血はありませんでした。頭及び背中を強打したのか、手足に痙攣がみられました。脳挫傷は間違いありませんが、教育委員会の担当者と相談し、しばらく保護して様子を見るということになりました。抱き上げたときに両手両足をバタバタさせたことや触診から手足に重度な骨折は見られませんでした。車にゴンとぶつかったということから、「ゴンタ」という名前をつけ、A2-84群に戻れる日を夢見て、現在治療及びリハビリ中です。
 私が下北のサルの観察を続けて16年になりますが、その期間中、サルの交通事故は今回の2件を加え6件の記録があります。もちろん、私が情報を得ていない事故もあるでしょうが、この6件のなかで3件は死亡しています。芋田で若オスが死亡した一件、本村でY♀のメギが死亡した一件、そして今回の一件が事故死の記録です。トラックの側面にぶつかり、跳ね飛ばされ、道路にたたきつけられた「サヨリ」、鼻から血を流しながらも、むくむくと起き上がり、森に入っていきました。「サヨリ」の死を予感しましたが、何とその4日後A2-85群で元気な姿、そればかりか交尾までしている姿を確認し、野生の生きる力のすごさをまじまじと見せ付けられた事故もありました。また、今年の7月26日、A2-85群の子ザルが館山橋の近くで事故に遭い、道路にうずくまっていたとの情報を得ました。しかし、該当するサルも現場に事故の跡も、周辺に事故にあったサルの姿もありませんでした。道路にうずくまるサルがいたことには違いないのですが、今のところ状況がはっきりとしない事故として記録しています。また、サル以外では今年の6月30日、ニホンカモシカが国道338号線の源藤城林道入り口付近で交通事故死しました。また、タヌキ・ノウサギも道路の横でぼろぎれのような死体となっている姿も珍しくありません。イヌやネコの交通事故死も多く、年間1万人が被害に遭う交通事故が人間社会だけの問題ではない時代となっています。皆さん、車を運転の際にはくれぐれも事故には気をつけてください。

文章・写真 松岡史朗
 


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