中部山岳地帯、サルがすむ高瀬ダムを訪ねて  2004年9月12日  三戸幸久

 富山県の黒部渓谷でニホンザルを調査してこられた赤座久明さんから、私の、北アルプス地域のニホンザルにふれた文章の中で“上高地と高瀬川が同地域であるかのような表現があるので気をつけた方がよろしいですよ”というご指摘をいただいた。
 たしかに、両者の関係は私の中で実にあいまいだった。しいていえば「一緒くただった」、いやどちらかといえば「いい加減だった」。
 なぜ私がここのサルについて触れたかというと、ここのサルは泉山茂之さんらが北アルプスの槍ヶ岳山頂付近まで上ってゆくニホンザルがいることを調査、紹介された(「北アルプスに棲むニホンザルの生活を追って」雑誌モンキーNo.211/212参照)(NHKでも放映)ことで有名な地域一帯だっただけではない。このことは インターネットでも紹介されている。 日本で一番高いところにすんでいるサルたちのすむところ特に冬季の寒冷気候という生息環境に興味があったからである。
 それにしても、サルもすごいがそれを追いかけているヒトがいるというのもすごい。
 そこで一念発起、日帰りで高瀬川へ行ってみることにした。

 愛知県犬山から高速道路にのって一路北北西へ、上高地インターチェンジを通り越しつぎの豊科インターでおり、大町市内をぬけ高瀬川ダムの下にある七倉ダムに向かう。下調べでは、車規制があり七倉ダムまでしかゆけない。その先にある高瀬川ダムへは徒歩でしか行くしかない。まずは七倉ダムへ向かう。
 出た!
 なんとサルのお出迎えである。
 サルは2歳半くらいと7〜8歳くらいの若い個体で、クリを食っている。車を降りるとパッと逃げ、距離をおいて移動する。ひとしきり見たり追ったり写したりした。彼らは進行方向の谷側から聞こえる複数のサルの声の方向へ急いでいる模様。そして谷間に降りていった。谷は急なので追うのをあきらめた。この幸先の良さ♪ 赤座さんに感謝!

 七倉ダムの車止めに車を置き、長いトンネルやあたりの風景を見ながらアスファルト道路を歩くこと約40分、午前11時半、一人また一人と降りてくる登山者とすれ違いながら歩く。巨大なロックフィルダムが見えてきた。ダムの下から上まで約15分ようやくダムの上にたどり着いた。
 標高1270m、ここが東洋一高いところにあって、しかも東洋一大きいといわれるロックフィルダム高瀬ダムだ。青色の不透明な水をためてある。「こんなよいところにこんな無粋なものを作りおって、東京電力いいかげんにせんかい!」とチラっと思いながら、ダムの向こう端にある展望に上る。

 と、な、なんと遙か高瀬川上流方向にツクンと槍ヶ岳の先っぽが顔をのぞかせているではないか。あの槍ヶ岳の麓、高瀬川中上流部にもサルたちがいるのである。感無量の思いにとらわれながら周辺を観察。
 展望台のある斜面の下方からサルの「ガッガガガ」という声、双眼鏡で探したが見つからず。時間切れのため双眼鏡で斜面を見ながらダムを下ることにする。見つからず。七倉ダムへの帰り道、道路際堰堤にサルの古い糞も確認。帰途につく。
 天候にも恵まれ、高瀬川ダムと槍ヶ岳の位置を体感できた1日であった。


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