想い出いろいろ  2005年6月12日  東京一本刀土俵入り三太

 その日の夕方、群れはスギの伐採地で動きを止めた。
2頭のオトナメスが伐採地の縁に座って、 モミジイチゴの果実を摘みとっては口にいれる。伐採地の両側にはコナラの二次林があって、南 のヤマザクラの枝では、年寄りのメスが若いオトナメスを毛づくろいしている。そのかたわらに は1−2歳のメスのコドモがぽつんと座っている。

 やがて、日は西の尾根に傾き、遠くの峰は濃いむらさき色に暮れ、気がつけばあたりには薄い 闇がひろがっている。

 はじめから居たのか、そこまで登って来たのか、モミの太い切り株の脇に、寄り添う母子のシ ルエットがあった。もう寝ているのか、それとも眼下を流れる南秋川でも見ているのだろうか。

 とどこおりなく夕陽が沈むと、あたりは一段と暗くなっていく。でも、母子は動かない。「天 敵を知らずに育ったサルは地面でも寝るのか?」と思った。

 これはずいぶんと前の情景で、場所は檜原村の南秋川流域、見ていた群れは1987年に分裂 した矢沢の群れです。6月5日の観察会のときに、いま観察をしているマカロニ群から、その母 体と考えている矢沢群へと思いが巡り、この「夕暮れのシルエット」がよみがえったというわけ です。

 モンキーウオッチングをはじめて20数年が過ぎようとしています。その間に、猿害対策など の人間の思惑をよそに、東京のサルの生息域と暮らしは大きく変わっています。

 私は、これまでの猿害問題との関わり方を捨てるつもりでいます。私には「おばあさんザルと 鉢合わせ」、「サルと同じ木に登る」など、忘れることのないサルとの想い出が沢山あります。 そして、それだけではなく「白山飯炊き物語」をはじめ、「お堂の一夜」、「下北ロボット事件」、 「浅間峠の早駆け二人組」など、御大方や親友との、涙なしには語れない、楽しい想い出もあり ます。

 調査研究とは無縁ですが、これからもズーッとモンキーウオッチングをつづけて、サルが無邪 気な生き物であることを、サルを愛する方々とともに宣伝していこうと思っています。


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