10月12日付、青森県による、脇野沢のサル24頭捕獲許可についての
NFS法人事務局のコメント

 1994年の捕獲申請の時までは、私たちはいかなる捕獲にも反対してきました。その理由は、
 @下北のサルの全容が1960年代以降、掴めていなかったこと。すなわち保護をするにも捕獲をするにも、何群・何頭いるのかもわからなかったのです。そのような状態での捕獲は地域的な絶滅も伴う可能性も否定できず危険であったこと。
 A猿害が起こったらすぐに捕獲に踏みきるのではなく、その前にやるべき対策、例えば電気柵での対応など、があったからです。

 その後、1998年「下北半島のサル調査会」は、それまでの調査結果を踏まえながら、下北半島全域のサルの群れの数・個体数の変動や増加率などを調べました。それらのデータをもとに将来の下北半島のニホンザル分布拡大をシュミレーションしたところ、現在の状況と傾向が続いた場合、2015年から2020年にかけて下北全域にサルの分布が広がることを推測しました。
 この推定結果が何を意味するかというと、現在サルがいないむつ市や川内町にもサルの群れが生活しはじめるということであり、そのことはサルによる農作物被害が広がることでもあります。サルによる農作物の被害が広がるということは、これまでの傾向からいって、【サルを憎む人・サルを殺せという人】が増えるということでもあるのです。これは一番さけなければならない事態だと思います。同じ風土に暮らす仲間に対して、殺せとか憎しみを抱くことは悲しいことですし、それよりもなによりも“邪魔ものは消せ”という対応しかできないということでは文化的ではありません。

 そこで「下北半島のサル調査会」は2000年度の報告書で、共存・共生に向けての 提言を発表しました(ホームページの提言を参照)。ここのサルは天然記念物です。しかしたとえ天然記念物であっても、人間の財産や身体に危害を加えるような状態を良しとして黙認することがよいというわけではないはずです。サルに、そこに住む人間の生活を認め侵害してもらってはこまるのです。そのかわり、私たち人間側も彼らの生活を守ってやる必要があります。お互いがお互いの生活を大事にすることが、人間側のとる政策の出発点であろうと考えています。
 そのためには、ヒト側は、サルがヒトの生活圏に入ってきたときには、はっきりと自己防衛し、サルの行動を規制し、場合によっては被害を受けた住民が自らサルを攻撃し、どうしようもない個体に対しては捕獲・駆除することも必要になってくるでしょう。そういうことができる体制もこれからは必要になってくると思います。
 一方、下北半島のサルもこれまで通り天然記念物として位置づけられ、守られる必要があるでしょうし、もちろん売買や趣味でのハンティングなどは今まで通り禁止されサルたちは保護される対象として下北半島で生活し続けることを良しとしなければなりません。
 ニホンザルの暮らしと地元の人間の暮らしは両立されねばならないということです。お互いがお互いの生活を認め、侵害しないような施策を講じていかなければならないと思います。

 今回の青森県の捕獲決定については、特定鳥獣保護管理計画に基づいたものです。しかしながら、この計画の策定に私たち調査会のメンバー、NPOのメンバーは入っていません。ただ、事務局長の松岡が一度だけオブザーバーとして、サルの現状について意見を述べたことはありました。また、ニホンザル保護管理策定に関して、公聴会もあり、意見を求められたこともありました。この時も、「地元の人達が判断できる体制を望むこと」を言うだけで、将来を見据えたうえでの協議というものではありませんでした。
 人家内まで、サルが進入侵害しているという現状を見る限り、一部、サルの捕獲・駆除は容認せざるをえない状況ではあります。ただ、どのサルとどのサルを更正不能なサルと認定し、誰が捕獲するのか、捕獲はどんな方法か、などで青森県と私たちとはめざしている方向が違っています。地元の人間がその場で主張しサルに対処することが、サルにとっても誰が怒っており、何をしてはいけないのかがわかりやすい方法なのです。
  ただ24頭捕獲してもよいというだけでは、サルにとって学習にならないばかりか、何の害も起こしていない、いってみれば人間側の生活圏を侵していないサルまでをも捕ってしまいかねない可能性が、過去にもあったように今回もあります。それではサルたちも混乱を招くばかりです。

 青森県には、是非ともサルにもわかりやすい、将来に向けてのきめの細かい、両者の生活が大切にされるビジョンを、早急に示していただきたい。そうすべき時期にきていると思われますし、私たちNPO法人もよりよい方向に向けて努力していく決意でいます。
 今回の24頭の駆除許可は、根本的な解決にはまだはるか遠いといわざるをえません。


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